| 第3回:WTO農業交渉(中) 〈日本にとって受け入れ難い上限関税が合意案に示されたまま、第5回世界貿易機関(WTO)閣僚会議が9月10日からメキシコ・カンクンで始まった〉 米国とEU(欧州連合)が手を結んで、現実問題として交渉が合意に達する可能性が出てきた。私は、米・EU合意案に対する各国の反応を情報収集すると同時に、あらゆる方面に対して「これでは多面的機能への配慮が不十分だ、上限関税は問題だ」と、日本の立場を総力挙げて説明しました。 上限関税を導入する方向が強まる中で、閣僚会議に出るのは正直辛(つら)い思いだった。上限関税が決まれば、日本に帰れないと思い、内心、私1人でも反対する決意を胸に秘めて日本を出発しました。 カンクンに入ってからは、まさに政府を挙げた取り組みでした。私は閣僚会議期間中、10人の閣僚と会談した。農業分野のまとめ役であるヨー座長(シンガポール貿易相)には、川口順子外相とともに会い、「ウルグアイラウンド合意後、日本は着実に改革を進めてきている。約束は守る国家だ」と主張しました。ヨー座長とは、後日もう一度サシで会い、「上限関税だけはどうしても困る」と本音をぶつけました。 合意案の改訂版が示される直前には、主催国のデルベス議長(メキシコ外相)に川口外相、平沼経産相と3人で会い、WTO全体について日本が協力する意向を表明しました。その時、私からデルベスに「上限関税が正式に決まったら、他の2大臣は知らないが、私は席を立って帰る」と強い決意を伝えました。そして、一方で、韓国やスイスなど食料純輸入国とG10を結成し、上限関税反対をアピールしたのです。 〈13日に最終的に示された合意案には、非貿易的関心事項に配慮する形で上限関税の例外がかっこ付きで盛り込まれた〉 かっこ書きとはいえ、例外規定が入ったことは正直ほっとした。同時に、何としても、かっこを外した文書にしなければいけないとも思いました。 最後に開かれる主要少数国によるグリーンルーム会合が山場で、何としてもやり遂げなければならない。EUは理解してくれるだろうが、米国はどう出るか。山を一つ乗り越えたけど、また一山という新たな重圧は、ものすごいものがありました。 そのグリーンルームは、農業を後回しにして、貿易円滑化、投資などの新分野から突っ込んだ議論が始まりました。これは発展途上国と先進国の妥協点を探ろうとする思惑があったのだと思います。会議はご承知の通り、その新分野で決裂した。合意案は幻になりましたが、かっこ付きとはいえ例外規定が盛り込まれたのは、ぎりぎりの努力が実を結んだものと思います。
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